
戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期 テーマB-3「症例報告・病歴要約支援システム開発を通じた臨床現場支援」に関する特設ページ
背景
多忙な医療従事者、
求められる医療DX

日本ではドラッグラグ(注1)、ドラッグロス(注2)の状況にあり、医療の発展に向けた臨床データ(リアルワールドデータ、以下「RWD」)の収集が不可欠な状況にある一方で、 少子高齢化による生産人口減少に伴う医療従事者の不足が急速に進行しており、医療従事者による情報入力負荷が大きいRWDの収集は実施困難な状況となっています。そのため、医療現場の業務改善「Digital Transformation(DX)」に注目と期待が集まっており、令和5年9月より内閣府による戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「統合型ヘルスケアシステムの構築」がスタートし、医療現場のDX推進等が強力に進められています。
(注1)ドラックラグ
海外で使用されている薬剤が、日本で承認されて使用できるようになるまでの時間差
(注2)ドラッグロス
海外で使用されている薬剤が、日本では使用できない状態
参画への思い
SIP第3期「統合型ヘルスケアシステムの構築」への参画、PRiME-Rの想い

NTTグループにおいてメディカル・ヘルスケア領域の一翼を担うPRIME-Rは、SIP第3期「統合型ヘルスケアシステムの構築」の研究開発機関の一つとして採択され、AI等を活用した症例報告・病歴要約支援システムの開発を通じ、「退院時サマリー」「診療情報等提供書」等の医療文書の半自動生成の実現をはじめとした医療DXの実現をめざしています。
前述した背景を踏まえ、NTTグループ各社とも必要な連携を図りながら医療DXを推進することにより、人々の健康を支える多忙な医療従事者の働き方改革に寄与していく考えです。
「統合型ヘルスケアシステムの構築」について
■目指す将来像
様々な健康・医療情報を活用することで、一人ひとりの個人が自らの健康状態について理解し、自立的に考え行動することのできる社会を目指します
本課題では、健康・医療というフィジカルな問題を数値化してデジタル空間に移行し、個人や集団のデータを機械学習やAI等で分析することで、現状を可視化し、医療や健康の原因推測や将来予測が可能になる将来にするため、各研究開発に取り組んでいます。私たちが目指す社会では、蓄積された健康・医療情報をもとに、医療者が目の前の問題に対してどのように取り組んだらいいのか、他の病院ではどうしているのか、様々な情報を参考にしながらより迅速に個別の判断ができるようになります。
また、医療者や研究者など専門職の方々だけでなく、国民一人ひとりが、日々の生活や自らの健康管理、治療について、様々に統合されたデータを基にして自立的に考え、行動できる社会像を描いています。
■ミッション

医療版Society 5.0を実現し、医療、ヘルスケア、研究開発、医療政策のそれぞれの現場で、実態を可視化し、新たな気づきに基づいて複雑な医療健康システムを制御することが私たちのミッションです。その核となるのは医療デジタルツインの実現です。
医療デジタルツインは、1.新たな知識の発見、2.医療現場・患者さんの支援、3.地域医療の3つの目的のために構築を行っていきます。
コロナのパンデミックの中で、日本の情報集積体制が非常に弱いということが明らかになりました。 例えば、現在中核的な病院で普及し始めている電子カルテは、病院やベンダーによって全くバラバラの情報が集められており、病院間での医療情報の統合や活用も難しい状態にあります。私たちはこのような現状の課題に対応すべく、医療デジタルツインの実装、医療データの標準化・統合による統合型ヘルスケアシステムを構築していきます。

「統合型ヘルスケアシステムの構築」の全体像
引用:JIHS 国立健康危機管理研究機構 ホームページより
SIP第3期「統合型ヘルスケアシステムの構築」
https://sip3.jihs.go.jp/research/index.html
研究概要
テーマB-3 「症例報告・病歴要約支援システム開発を通じた臨床現場支援」
❶ 全体イメージ
本研究では、「医療現場のDX推進に向けた医療文書(退院時サマリー、診療情報等提供書)の半自動生成を実現するシステムの開発と、開発したシステムを活用したRWDの収集、および臨床研究での活用」をめざしています。

これまでの文書作成

- 退院決定
- 電子カルテの確認
- 必要なデータが足りない場合は
各種データを再確認 - 長期の入院や複数症状がある場合、
さらに大量のデータ確認 - 多忙な業務の中、
必要なデータを取り揃え文書の作成
患者の退院が決まって退院時サマリーを作成する際、医師は電子カルテから、治療の経過を確認します。治療経過の中で、何らかの変更があった場合、退院時サマリーにそれを記載する必要がありますが、記載に必要な情報が電子カルテに記載されていないことがあり、その都度、様々な関連情報を調べて記載しています。これに非常に時間がかかり、医師の負担となっております。特に長期にわたる入院や、複数症状が重なる場合など、負担が大きくなっています。
これからの文書作成


- 退院決定
- 文書生成ボタン
- 必要な情報をサマリー表示
電子カルテに記載が足りない場合でも各種データから自動抽出 - 必要な情報を選択し 文書として保存
- 長期にわたる入院や、複数奨励の場合でも
AIが必要な情報を収集、サマリー化
患者の退院が決まって退院時サマリーを作成する際、医師は「AIを用いた文書生成ボタン」を押します。退院時サマリーに記載する必要がある情報が電子カルテに記載されていないことがありますが、AIと独自アルゴリズムが関連情報を自動収集し、治療の経過を自動でサマライズしてくれます。長期にわたる入院や、複数症状が重なる場合においても、関連情報の自動抽出とサマライズは可能です。医師が、自動でサマライズされた内容を確認し、必要な情報を取捨選択し、確定することにより、簡便に退院時サマリーを完成させることが可能となります。
❷ スケジュール・研究開始からの取り組み
2-1.これまでの取り組み(令和5年度)
基礎調査、技術的課題・問題点の把握、マーケティングリサーチ(電子カルテベンダ各社の調査・市場ニーズ調査等)
退院時サマリー、診療情報提供書等の医療文書の半自動生成に向け、国際的な動き(LLM(注3)活用等)やマーケットの動きも確認しつつ、以下の4つのテーマで研究を実施してきました。
(注3)大規模言語モデル(Large Language Model)の略で、大量のテキストデータを使って学習された、言語の理解や文章の生成に優れた能力をもつAI。
- テーマ①LLMを用いた
半自動生成機能の実現 - テーマ②LLM検討
(各種LLM検証、
病院内への設置実現) - テーマ③研究成果の社会実装
- テーマ④海外の取り組み調査、
国際標準対応の検討
令和5年度において、英国・米国等では電子カルテに記載された事項をLLMを用いて 自動構造化していく取り組みが成功していますが、日本の場合、電子カルテに医療文書の生成に必要な情報が書かれていない(不足している)場合が多々あり、LLMを用いるだけでは 自動構造化が困難であり、医療従事者が求める品質の文書を生成するためには、何かしらの工夫が必要であることが判明しました。
2-2.これまでの取り組み(令和6年度)
前年度に発見した技術的課題・問題点へ対応した開発の実施、大規模病院だけでなく中規模病院等への導入を検討
前年度の研究で明らかになった「医療文書の生成に必要な情報が書かれていない(不足している)場合が多々ある」という問題点から、研究計画を見直し、私たちは、①変異のあった日時を推定し、その近辺での治療等に関する情報を集めてサマライズ化・構造化する機能、②治療の変更における因果関係などを自動で図示する機能、を備えた「治療における変異点等を自動抽出する独自アルゴリズム」を開発することとしました。(特許申請中)
これにより、必要な情報が電子カルテに不足している場合においても、必要な情報を抽出、サマライズ化し、医療文書の生成を実現することが可能となります。 また、短期入院が多い病院等においては、医療DXに対する期待が特に強く、クラウド型電子カルテシステム等 とLLMを組み合わせた医療文書生成システムへのニーズが高いことも判明しました。
また、LLMの性能は、パラメータ数の大きさにある程度比例することから、病院施設で利用する際に必要な性能を満たすために大パラメータのモデルを利用する必要がある一方で、病院施設によっては大パラメータのLLMを実行可能な高額設備を用意することが困難な場合もあります。
そのため、実際に病院施設で導入可能な設備で実装可能なLLMモデルを選択するとともに、 ダウンサイジング(量子化)の検証についても取り組むこととしました。
2-3.現在の取り組み(令和7年度)
社会実装の実現に向けた開発
今年度はこれまでの研究成果を製品化し、市場展開を実施していく社会実装に向けた開発に取り組んでいます。
<独自アルゴリズムの性能向上、対象領域拡大>
現時点の独自アルゴリズムは医療従事者が求める品質を満たしていない状況にあることから、複数の医療従事者の協力のもと、独自アルゴリズムにおける治療変異点抽出のカバー率向上を図り、製品化可能な水準への到達をめざしていきます。併せて、抽出された変異点とその前後の治療に関するデータから、相関性を図示する機能を開発し、具備していくことにより、医療従事者にとってより一層利便性の高いシステムとしていく考えです。また、現在のアルゴリズムは腫瘍内科向けに開発したものですが、今年度中に循環器領域用のアルゴリズム開発にも取り組んでまいります。
<品質向上に向けた実証実験>
これまでの成果を実際の病院施設で実装し、医療従事者に利用・評価いただくことで更なる品質向上に努めてまいります。 大規模病院においては、2施設での実証実験と併せ、英国での実証実験を進めており、これら成果をもとに製品化をめざしていきます。
❸ 国内・国外での研究実施
本研究においては、将来的に海外のデータと組み合わせた研究を実施していくにあたり、日本独自仕様とならないよいう、海外の情報収集を実施していきます。実際に英国での検証を実施し、双方の国での特徴や課題、問題点の分析、および将来的な 海外での活用も見据えた開発に取り組んでいきます。
❹ 製品の特長
①独自アルゴリズムとLLMを組み合わせる事により、医療文書自動生成に必要なデータが電子カルテに不足している場合や誤って記載されている場合においても、高品質な文書生成を実現することをめざしています。
(例)電子カルテに一次治療SOX療法開始日2019年9月5日は記載されているが、終了日が記載されておらず他資料には終了日が記載されている場合。
※治療における重要な変異点(一次治療終了)を自動で見つけ出し、その周辺の日次における、関連データから必要な情報を抽出。
②独自アルゴリズムとLLMを組み合わせる事により、文書生成だけでなく、治療における一連の流れをフロー図化する機能を有しております。これにより直感的に、治療経過を把握することができます。治療における方針決定や、院内カンファレンスでの活用」や、「標準治療におけるフローと該当患者の治療フロー」を比較分析することも可能となります。病院経営への活用や、若手医師育成など様々な活用ができると想定しております。
③高額な投資を必要とせずに利用できるシステムをめざしています。大規模病院向けには、電子カルテベンダに依存せずベンダフリーで利用できるシステムの開発を進め、中規模病院向けには、クラウド型電子カルテシステムと連携することで安価に利用できるシステムの開発を進めていきす。
❺ ビジネスモデル
医師350名以上へのアンケートやインタビューを実施し、 多くの医師から、「文書作成に時間がかかっており、少しでも改善されるなら利用したい」というご要望を確認しました。
この調査により、大規模病院、中規模病院の医師によって求める水準が異なることが判明しました。
大規模病院では研究などでの活用を含む高い品質が求められている一方で、中規模病院では「まずは簡単にサマリー化するだけでもいいので、業務効率化を図りたい」 との声が多くありました。
この結果を踏まえ、大規模病院向け、中規模病院向けの二つに戦略を分け、それぞれの市場に対してアプローチ していくビジネスモデルを検討しています。
また、小規模病院やクリニック等の医療従事者においても、医療DXに対するニーズは非常に高いため、今後検討を進めてまいります。
❻ トライアル実施模様

技術的観点のみのシステム開発では、利用者である医療従事者のニーズを満たしていない場合があり、実際に医療現場で利用されない可能性があることから、現在 複数の病院施設において、医療従事者にご利用いただき、その「声」を反映させた性能向上に取り組んでいます。その中でも、現在、実証実験を行っている、医療法人社団焔「おうちにかえろう。病院」様の医師、看護師、リハビリ、事務等の病院施設における医療従事者の皆様から、医療現場の改善に向けた様々な「声」をいただいており、この「声」を踏まえた改善に取り組んでいるところです。
今後は、さらに実証実験参加施設を拡大し、より多くの「声」を活かした開発を実施していきます。
将来の展望
❶ 私たちの成果とデジタルツインの関わり
私たちは、LLMにより構造化したデータと独自アルゴリズムで抽出したデータを組み合わせ、医療文書を半自動生成するシステムの開発に取り組んでいます。
私たちの独自アルゴリズムは治療における変異点(有害事象の発生等)を推測し、様々なデータから候補データ等を抽出する非常に画期的な技術であり、他製品等にはない優位性をもっています。
また、LLMにより構造化したデータと独自アルゴリズムで抽出したデータを組み合わせたデータは、退院時サマリー等の半自動生成において有用であるだけでなく、 医師の日々の診療を可視化し、患者さんの診療経過(日、週、月単位等)のサマライズを実現するものです。自然言語で書かれた診療経緯を簡易にサマライズするこの機能は、日々の医療行為をデジタル化するものであり、医師等の働き方改革や医療DXだけでなく、若手医療従事者の育成や病院の経営改善にも利活用が可能であり、こうした私たちの成果はSIP3の全体目標でもあるデジタル空間(デジタルツイン) への移行に寄与するものであると考えています。
❷ 「医療デジタルツイン」実現への関与を通じた医療の発展への貢献
人が産まれてから亡くなるまでに関わる全ての医療情報を集積する「医療デジタルツイン」の実現に向け、PRiME-Rは、乳幼児健康診査、学校健康診断、定期健康診断等の健康時のデータや、罹患時における治療に関するデータ、更には予後のデータ等も含め、NTTグループ各社と連携して収集・蓄積してまいります。
「医療デジタルツイン」の実現に積極的に関与することを通じ、プレシジョンメディシン(精密医療)の実現や創薬の加速化など、更なる医療の発展に貢献していきます。

関連リンク
- JIHS 国立健康機器管理研究機構 SIP第3期ホームページ
- https://sip3.jihs.go.jp/index.html
- NTTプレシジョンメディシン モバカルホスピタル ホームページ
- https://movacal.net/hospital/
本件に関するお問い合わせ
- 新医療リアルワールドデータ研究機構株式会社(PRiME-R)
プライムプロモーション部 - 担当:藤田、梅原
電話番号:075-752-0330
メールアドレス:pr-ml-primer@ntt.com